賃金と公約の話(経済政策)
「最低賃金を段階的に引き上げ、10年以内に1500円を目指します」だけだと、「そんな先になるなら実感を持てないし助かる気がしない」と思われるのかもしれない。「2年後に1200円にする」とか「1000円に達していない地域は来年に1000円にする」という目標も必要だ。
2022年になって、時給が800円台では、地方から人が出ていってしまうのを止められない。賃金を上げると決めて、そのために必要なことをやるという方針で進めないといけない。
今まで日本は地方再生、地方創生のために大規模な事業や財政支出をしてきたけれど、今後はその重点を、全国どこでも、誰でも、時給が少なくとも1000円以上、1200円以上の賃金を得られるように振り向けたらどうだろう。
成長というのはまず所得の成長、賃金の成長でなければならない。それを中小企業や自営業・個人事業主の自助努力だけに任せるのではなく、国の政策として進めていくということだ。
ドイツは2022年度から最低賃金を12ユーロにすることを決めた。欧州政治をウォッチしている方が、ドイツは穏健保守的な有権者が多いと仰っていた。ショルツ社民党が打ち出した「最低賃金12ユーロ」という公約は、穏健な有権者にも「手堅い数値で、小さすぎず、受け入れ可能だ」と思われたのではないか。
そして社民党と緑の党、自由民主党の連立合意が成立し、社民党党首が首相になったので、実際にドイツでは来年度から最低賃金が1時間換算で12ユーロに上がることになった。
https://twitter.com/RegSprecher/status/1496496918972841989?s=20&t=lyuw3YxQZwb4NvCSpa0i6A
日本もこのようなやり方を参考にしてみたらいい。12ユーロを日本円にすると1500円以上になるのだが、残念ながら今のところドイツと日本の賃金の水準や経済の実力はかなり開きが出てしまっているので、日本の1~2年後の目標としてはまず1200円がふさわしい。最低賃金を全国で1500円以上にするにはやはり5年以上かかるだろう。
穏健堅実なドイツですら最低賃金の大幅な引き上げ(1年で9.6ユーロから12ユーロ)ができているので、日本も2023年~2024年度(1年後~2年後)に最低賃金1200円を達成することは可能だと思う。先ほど述べたように12ユーロは円に直すと1500円以上なので、それに比べれば最低時給1200円は十分手堅い目標値だ。
「2024年10月度(2年後)に最低賃金1200円達成」を目指してみよう。もちろん、10年以内にできるだけ早く1500円を達成する政策も欠かせない。
多くの人にとっては、3年以上先の時期はどれも遠い先のことで、今の自分にあまり関係なく思えてしまうものだ。もっと近い時期に改善される実感を持てる、1年後や2年後、つまり来年や再来年の話がなくてはならない。そこに対応するのが「2024年(2年後)までに時給1200円」である。
そして「10年以内に時給1500円以上」は、池田政権の「所得倍増」に相当するものとして、今の日本の状況の中で現実的に追求可能な政策である。
日本がこれから所得を倍増させるには30年くらいかかるだろう(急激なインフレで通貨の桁が狂ってしまえば別だが、それは大多数の国民の利益にはなりそうにないし、その状況で額面だけ「倍増した」と言ってもあまり意味はない)。
30年以上かけての所得倍増は壮大で、年平均1%以上の成長率を維持し続けられれば達成も可能だが、それだけでは「そんな先のことじゃ仕方ない」という受け止め方をされてしまうおそれもある。
しかし、10年以内に時給換算で1500円、つまり1日8時間月20日働けば月収24万円、年に288万円の所得をすべての働く人が受け取れるようにすることは、達成可能な目標だし、むしろそれぐらい確保しなくてどうするのかというぐらいの目標だ。
池田政権は「10年以内で国民所得倍増」という計画を掲げ、それに対して現実的でないという意見もあればもっと高い目標を掲げようという意見もあったが、実際には7年で目標を達成した。今の日本にもそのような計画が必要だ。
2020年代の最低時給1500円は、1960年代の所得倍増と同じくらいの大きさと実現可能性をもった計画である。振り返ってみれば、誰もが「日本がそのくらいのことを実現できるのは当然だ」と言うだろう。
2024年(2年後)までに最低賃金1200円を達成し、そして10年以内、2020年代のうちに最低賃金1500円を実現する構想は、むしろ必達の目標である。